日本のダム 尾瀬原ダム

群馬・福島・新潟の県境に広がる高層湿原「尾瀬ヶ原」。その美しい景観の裏には、かつて巨大ダムの建設計画が存在していたことをご存じでしょうか。
それが――尾瀬原ダム。
もしこのダムが実現していれば、尾瀬の湿原は広大な湖底に沈んでいたかもしれません。今、私たちが目にしている尾瀬の風景は、この“幻のダム”が中止されたからこそ残った奇跡なのです。

尾瀬原ダムとは

計画地:阿賀野川水系・只見川最上流部(新潟県魚沼市〜福島県檜枝岐村)

型式(案):ロックフィルダム

規模(案):堤高約85m、堤頂長約940m

貯水予定量:約6億8,000万㎥

湛水面積:約1,250ha

主目的:水力発電および利根川水系への分水

事業主体:電源開発株式会社(J-POWER)

結果:環境保全の観点から反対運動が広がり、1996年に正式中止。

1950年代から構想されたこのダム計画は、当初「奥只見ダム」に続く大型水力発電ダムとして期待されていました。
しかし、計画地が日本を代表する湿原・尾瀬ヶ原に隣接していたため、全国的な自然保護運動が巻き起こり、最終的に電源開発が水利権を放棄。尾瀬の自然は守られることとなりました。

「もし建設されていたら」消えていた景色

尾瀬原ダムが完成していた場合、今の尾瀬ヶ原・尾瀬沼はダム湖に沈んでいたといわれています。
つまり――

水芭蕉が咲く湿原も、

木道を歩くハイカーの姿も、

燧ヶ岳を映す静かな水面も、

すべてが湖底の下に消えていたかもしれません。

そう思うと、尾瀬の自然を歩くことが“守られた奇跡の風景を体験する行為”であることに気づかされます。

尾瀬を訪れる前に知っておきたい物語

尾瀬原ダム計画の中止は、日本の自然保護運動史の象徴的な出来事でした。
この決断がなければ、「尾瀬=自然保護の聖地」というイメージも生まれなかったかもしれません。

いま尾瀬を歩くとき、湿原に吹く風や、静かに流れる川の音に耳を傾けてみてください。
そこには、**自然と人間のせめぎ合いの果てに守られた“静かな生命”**が息づいています。

尾瀬へのアクセス

主要ルート:群馬県側(鳩待峠)、福島県側(御池)、新潟県側(沼山峠)から入山可能

ベストシーズン:5月下旬〜6月の水芭蕉シーズン、9月〜10月の紅葉期

注意点:木道は滑りやすく、朝晩の冷え込みが厳しいため服装・装備は万全に。

まとめ

尾瀬原ダムは、「造られなかったダム」だからこそ語り継がれる物語です。
その中止が、尾瀬という“奇跡の湿原”を守りました。

今、尾瀬を訪れることは――
かつての開発計画と、それを乗り越えて残された自然の尊さを感じる旅。

木道の先に広がる風景は、ただの絶景ではありません。
それは、失われなかった自然の証。
尾瀬を歩く一歩一歩が、その物語を静かに紡いでいくのです。

日本のダム 奥三面ダム



新潟県村上市の奥深い山あいにそびえる「奥三面ダム(おくみおもてダム)」は、自然と共生する美しさを持つアーチ式コンクリートダムです。周囲を原生林に囲まれたこの地は、まさに“秘境”という言葉がふさわしく、訪れる人を非日常の静けさへと誘います。

奥三面ダムの概要

所在地:新潟県村上市三面地区

型式:アーチ式コンクリートダム(放物線アーチ)

規模:堤高116m、堤頂長244m

総貯水容量:約1億2,500万㎥

完成:2001年(平成13年)

目的:洪水調節・流水機能の維持・発電などの多目的ダム

管理者:新潟県

新潟県が管理するダムの中で唯一のアーチ式構造。精密な設計によって、谷間の地形を活かし、自然と一体化するように造られています。

自然と調和する絶景

ブナの原生林が広がる山々に抱かれ、ダム湖は四季ごとに異なる表情を見せます。

春:雪解け水で満ちる湖面と新緑のコントラストが鮮やか。

夏:深い森の緑と青く澄んだ水面が織りなす静けさ。

秋:紅葉の名所として知られ、ダムの曲線と紅葉が織りなす光景は息をのむ美しさ。

冬:深雪に包まれた幻想的な姿も圧巻です。

アーチ型の堤体が山の斜面に溶け込むように建てられており、人工物でありながら、まるで自然の一部のように感じられます。

歴史と記憶をたどる場所

奥三面ダムの建設により、かつての「三面集落」は水没しました。
その記憶を後世に伝えるため、湖畔には**「奥三面ダム水没集落跡メモリアルパーク」**が整備されています。
ここでは、縄文時代から続いた山間の暮らしや文化を資料や展示で知ることができ、単なるインフラではない“人と自然の歴史”に触れることができます。

訪問のヒント

アクセス:村上市中心部から車で約60分。県道鶴岡村上線(朝日スーパーライン)沿い。

駐車場:あり(無料)

ベストシーズン:紅葉シーズン(10月中旬〜下旬)

注意点:冬季は積雪により通行止めとなる場合があるため、事前に道路情報を確認。

まとめ

奥三面ダムは、巨大なアーチが山の静けさの中に溶け込む、まさに“自然と技術の融合”を体現した場所です。
湖畔の風景はもちろん、そこに眠る人々の記憶や物語にも触れられる特別な空間。

喧騒から離れ、静かな時間を過ごしたいとき――
奥三面ダムの湖畔に立てば、自然の息づかいと人の営みが共鳴する音が、そっと心に響くはずです。

日本のダム 奥只見ダム



新潟県魚沼市と福島県檜枝岐村にまたがる「奥只見ダム」は、高さ157m・堤頂長480mを誇る日本最大級の重力式コンクリートダム。ダム湖である**奥只見湖(銀山湖)**は広大で、周囲を深い山々に囲まれた自然の楽園です。人の手で生まれた巨大な建造物でありながら、自然と見事に調和するその姿は、まさに“秘境のダム”と呼ぶにふさわしい存在です。

奥只見ダムの概要

所在地:新潟県魚沼市/福島県檜枝岐村

型式:重力式コンクリートダム

規模:堤高157m(日本一)、堤頂長480m

完成:1961年(昭和36年)

貯水容量:約6億㎥(湛水面積約1,150ha)

目的:水力発電(最大出力56万kW)

管理者:電源開発株式会社(J-POWER)

ダム建設の目的は発電であり、最大出力56万kWという出力は、一般水力発電では国内最大級。日本の高度経済成長を支えた“電力の要”として、今も現役で稼働しています。

圧倒されるスケールと美しさ

奥只見ダムの堤体を初めて目にすると、そのスケールの大きさと静謐な存在感に誰もが息をのむでしょう。谷を埋め尽くすように築かれた巨大な壁面は、圧倒的な迫力を放ちながらも、周囲のブナ原生林と調和しています。

湖面に映る山々、霧に包まれる朝、雪解けの春、燃えるような紅葉――訪れる季節ごとに、まるで別世界のような表情を見せてくれます。

奥只見湖(銀山湖)の魅力

ダム湖「奥只見湖」は、全長約18kmにもおよぶ広大な人造湖。別名「銀山湖」と呼ばれ、その名の通り、かつて銀鉱山が栄えた地でもあります。

春~夏:深い緑と青い湖面が美しく、遊覧船が運航。湖上から眺める山々は圧巻。

秋:日本でも屈指の紅葉スポット。赤・黄・緑が織りなす色彩はまさに絶景。

冬:積雪量は日本トップクラス。雪に閉ざされる期間が長く、「シルバーライン」も冬季通行止めとなります。

観光スポット・見学ポイント

ダム天端(てんば):堤体の上を歩くことができ、眼下に広がる湖と山々のパノラマは圧巻。

奥只見電力館:ダム建設の歴史や発電の仕組みを学べる展示施設。

奥只見湖遊覧船:湖上から望むブナ林と山々の風景は息をのむ美しさ。

銀山平温泉郷:ダム周辺には温泉宿も多く、ゆったりと滞在するのもおすすめ。

アクセス情報

車:関越自動車道「小出IC」から国道352号経由で約50分
※新潟県道50号「奥只見シルバーライン」は約22kmがトンネル区間(二輪車通行禁止)

営業期間:例年5月下旬〜11月中旬(冬季閉鎖)

駐車場:無料・普通車約200台

まとめ

奥只見ダムは、巨大なスケールと静寂な自然が共存する日本屈指の“秘境ダム”。
人の技術と自然の力が織りなすその風景は、まるで一枚の壮大な絵画のようです。

シルバーラインを抜けてたどり着く先には、日常を忘れるほどの絶景と静けさが待っています。
次の旅に、“日本一の壁”を見に行く冒険を加えてみませんか?

日本のダム 大谷ダム (新潟県)



新潟県三条市の山あいに建つ「大谷ダム」は、五十嵐川の治水や水道用水の確保を目的に造られた多目的ダムです。堂々たるロックフィル構造の堤体と、その懐に広がる「ひめさゆり湖」は、訪れる人を優しく迎えてくれる憩いの場。自然と人の営みが調和するこの地は、ダム好きはもちろん、静かな観光スポットを探している人にもおすすめです。

大谷ダムの概要

所在地:新潟県三条市大谷

型式:中央土質遮水壁型ロックフィルダム

規模:堤高75.5m、堤頂長360m

着工・完成:1971年着工、1993年竣工

貯水池:ひめさゆり湖(総貯水容量約2,110万㎥、有効貯水容量約1,705万㎥)

目的:洪水調節・河川維持・上水道供給

「五十嵐川ダム」として計画され、完成時に「大谷ダム」と改称。湖は地元に咲く可憐な花「ひめさゆり」にちなんで命名されました。

見どころと魅力

ひめさゆり湖の四季
春は新緑、夏は深い緑、秋は鮮やかな紅葉、冬は雪景色と、季節ごとに湖畔が美しい表情を見せます。

ふれあい資料館
ダム建設の歴史や役割を学べる施設。模型や映像で子どもから大人まで楽しめ、入館無料なのも嬉しいポイントです。

せせらぎ広場・はやぶさ広場
湖畔に整備された散策スペース。水辺の音に耳を傾けながら、のんびりとした時間を過ごせます。

写真映えスポット
山々と湖、巨大な堤体が一体となる景観は迫力満点。紅葉シーズンは特におすすめです。

アクセス

車:北陸自動車道「三条燕IC」から国道289号経由で約60分

公共交通:JR東三条駅からバスで笠堀方面へ → 下車後徒歩約15分

駐車場:普通車約30台分あり

まとめ

大谷ダムは、暮らしを支えるインフラでありながら、自然の美しさを満喫できる観光スポットでもあります。
湖畔でゆっくり散策したり、資料館で学んだりと、訪れ方は人それぞれ。四季折々の景色が旅に彩りを添えてくれるでしょう。

次のお出かけに、新潟の隠れた名所「大谷ダム」を加えてみませんか。

日本のダム 大石ダム



新潟県関川村に位置する「大石ダム」は、洪水調節や発電などを担う多目的ダムでありながら、湖畔には豊かな自然と多彩なレジャー施設が整備された人気スポットです。重厚な堤体と四季折々の風景、さらに地域の文化イベントまで楽しめる、まさに“自然と人をつなぐ拠点”といえる場所です。

大石ダムの概要

所在地:新潟県岩船郡関川村

型式:重力式コンクリートダム

規模:堤高87m、堤頂長243.5m

完成:1978年(建設は1968~1980年)

貯水池:おおいし湖(湛水面積約110ha、総貯水容量約2,280万㎥)

発電:大石発電所(最大出力10,900kW)

管理:国土交通省 北陸地方整備局

羽越水害をきっかけに建設されたダムで、治水や利水の要として地域の暮らしを支え続けています。

湖畔で楽しめるアクティビティ

おおいし湖を囲むエリアは「大石ダム自然公園」として整備され、家族で楽しめる施設が充実しています。

小動物園:ウサギやポニー、ヤギとふれあえる人気スポット。餌やり体験もできます。

遊具・アトラクション:ゴーカートやミニSL、ロープアドベンチャーなど子どもが夢中になる遊び場が豊富。

自然館・レストハウス:展示や休憩ができる施設で、雨の日も安心。

展望広場・バーベキュー場:湖畔を眺めながらのピクニックやアウトドア体験に最適。

珍しい自然現象:6月中旬から9月末にかけて湖岸に現れる「グリーンベルト」は、写真映えする絶景です。

地域文化とイベント

大石ダムは地域の文化活動とも深く結びついています。

大したもん蛇まつり:全長80mを超える大蛇を担ぐ勇壮なお祭り。地域の誇りを感じられる伝統行事です。

自然体験イベント:ウォーキングラリーやカヌー体験、「森と湖に親しむ旬間」など、湖を舞台に多彩な催しが行われます。

登山やキャンプ:周囲には登山道やキャンプ場もあり、自然探勝の拠点としても活躍しています。

アクセス

公共交通:JR米坂線「越後下関駅」から車で約15分

車:日本海東北道「荒川胎内IC」から約25〜30分

営業期間:4月〜11月(冬季休園)

駐車場:100台以上、無料

まとめ

大石ダムは、地域を守るインフラであると同時に、湖畔で自然や文化を楽しめる観光拠点でもあります。重厚なダムの姿に感動し、湖畔でのんびり遊び、祭りやイベントで地域文化に触れる――そんな充実した時間を過ごせるのがこの場所の魅力です。

休日のお出かけに、ぜひ「大石ダム」を訪れてみてください。自然と文化が調和する特別な体験が待っています。